なにか書きたい。

30代になっても自由に、思いのままに、なにか書いています。

バルセロナで一文なしになったときの話。3

 

ホステルのラウンジで忽然と姿を消した、私のショルダーバッグ。

中には現金とクレジットカード、パスポート。

 

突きつけられる、一文なしという現実…

 

「今からすぐに領事館に来てください」と言われた私は、バックパックと開かずのスーツケースとともに通りへ飛び出しました。この状態がどうにかなることなんて、あり得るのだろうか…。

 

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ダッシュで通りに出てみると、すぐ目の前にずらりとタクシーが停まっていました。

そういえばこの道、休憩中なのか、道の端から端までタクシーがびっしり停まってたっけ。

 

(でも…、ここのタクシー危なくないかな、スペインは大丈夫なのかな…?)

 

異国のタクシーは日本のタクシーと違って、ぼったくりなタクシーも、人さらいなタクシーもあります。「この色のタクシーは乗らないように」など、気を付けるべきことがあるのです。

私はフィリピンでもよくタクシーを使いましたが、平気で遠回りしたり、道中ガソリンスタンドに寄ったりする運転手さんもいました。笑

 

乗っても平気かな〜…と思いながら空のタクシーを覗き込んでいると、「タクシー?」と声を掛けられました。見ると、休憩中の運転手さんたちかな、おじさんが5人くらい、ニコニコしながら立っていました。

 

「どこまで行くの?」

「あの、この住所なんだけど…わかりますか?」

 

「ああ、わかるよ」 

(えっそんな、一瞬でわかったの?ほんとかな??)

 

「これ、乗せる?」

「乗りな!」

「あっ、ちょっと待っ…ありがとう…あの、でもね!」

 

私は一文なしだから、領事館前にちゃんと着いてもらえないと困ってしまう。

「じゃあこの辺でいいです、あとは歩いて探してみるから」ってできない。

 

事情を…事情を説明しておかねば!!

 

「私、ホステルでバッグを盗まれちゃったんです。それで今から日本領事館に行かないといけないの。でもお金も盗まれちゃったから、料金は領事館の人が払ってくれるの、だから……」

「ああ、」

違う運転手さんが言いました。

「…え、じゃあ今、君はお金持ってないの?」

 

「そうなの、ないの。日本円はあるんだけど…」

「お金?ないの??」

 

「うん、でも領事館の人が払ってくれるから…」

 

おじさんたちの表情から色がひいていきました。

明らかに困惑させている…

 

「…お金がない人は乗せられないよ、」

「えっ、でも…領事館の人が、ちゃんと…」

 

「でも、君は、お金持ってないんでしょう?」

「うん…」

 

「…じゃあダメだ、他のタクシーをあたってよ」

 

違うの、大丈夫、私、ちゃんと払うから…!

わ、私は払えないけど…領事館の人がちゃんと……!

 

まわりの運転手さんたちの顔を見ました。

「ごめん…」「うちもダメだ」「だめだめ!」

 

ああ…あああ……

 

 

通りにびっしり停まっているタクシーを端から端まで見ました。

でも、ダメだ…ここのタクシーはもうダメだ。おじさんたちに信用されてない。

その人はお金を持ってないよって言われちゃう。

 

私は走ってその場を立ち去りました。

ガラガラとスーツケースの音を立てて。

涙がじわじわ出てきて、目の前の明るい景色がぼやけてくる。

 

バカだ…!

私はバカだ…!!

大馬鹿だ!!!泣

 

ここは日本じゃない、日本じゃないんだ、、

私はなにを…馬鹿正直に、、

私は、、なんてバカなんだ、、、!泣

 

 

「信用」とか「信頼」とか、「困ったときはお互い様」とか、

言葉にするとそういうものを思い出していました。

 

日本の文化とは、いかにあたたかいものだったのか…。

 

いやでも、日本も「今お金がない」なんて言ったら乗せてくれないか。

わかんない。

でも、日本…日本!

今すぐ日本に帰りたい…!!

 

まず、日本なら私のバッグ盗ったりしないし!!!泣

 

 

もう頭も、胸の奥も、ぐちゃぐちゃ。泣いていました。

でも泣いてなんになる。泣くな、泣くな…!

 

走って走って、あっという間に広場に出ました。

広場に沿って、道にびっしりタクシーが停まっていて、順番待ちをしているようでした。

 

涙を拭いて、気合を入れます。

ぜってー次のタクシーには乗る…!

何食わぬ顔して乗るんだ、大丈夫!話はそれからだ!!

 

窓から運転手さんに話し掛けました。

「ここに行きたいんですけど、この住所でわかりますか…?」

「大丈夫ですよ、どうぞ」

やっぱそんなに一瞬でわかる住所なのか。

 

トランクに荷物を積んでもらって、車に乗り込みました。

目の前の運転手さんを騙しているような後ろめたさと、不安でいっぱいでした。

さっきのおじさんたちがどこからか見ている気もする…。

 

車が動き出すと、ただひたすらに空に向かって祈りました。

お願い、着いて…、ちゃんと着いて…!

領事館の人に会えますように……!

スモークガラスを通して見る空は色褪せていて、まるで私の心の中のよう。 

やけに静かな車内。やけに長い道のり。

 

私の心を落ち着かせるのは唯一、Googleマップの現在地の動きのみ。

(うん…よし…ちゃんと領事館の方へ向かっている……)

 

 

しばらくすると、目的地らしき建物の前に着きました。

大きくて、ガラス張りのキレイなオフィスビル。ピシッと高そうなスーツを着た、背の高いビジネスマンの人たちが、話しながら出てきたり、ビルの前で話したりしていました。

 

領事館!みたいな建物の前に着くのだと思っていた私は、挙動不審MAXになりながら(へっ…?ここ?オフィス??なんかオフィスじゃね?ここ…?)とキョロキョロしました。

 

運転手さんはそんな私をバックミラーで見ながら、

「なんか違う…?」と言います。

「んーー、、(どうしよう本当の事を言おうかな、、)人が…いなくって……」 

「人…?」

と、その時でした。

 

ビルの入り口から、眼鏡を掛けた小柄な女の人が、巾着のようなものを持ってこちらへ歩いてくるのが見えました。

「ああッ!!あの人かも!!」

 

「なつさんですか?」

「はい!涙」

 

電話では(お母さんかな…?)と思ったその人は、もっとずっと若くて、私と少ししか年の変わらないように見える、お姉さんでした。

運転手さんとその人は、少しの間、スペイン語で何か話していて、終わると運転手さんが私の方を見ました。

 

「本当にごめんなさい」

無賃乗車して、、騙したみたいになっちゃって、、、泣 

「いいんだよ」 

運転手さんは複雑そうな顔をして言ってくれました。

 

 

「さあ、行きましょう」

その人の横を歩きながら、(やっぱり領事館はこのビルの中だったんだなぁ…)と思いました。入口の案内板の前を通ったとき、『日本領事館』という文字が目に飛び込んできました。

 

ああっ、日本…!!!涙

ああ、私の祖国。私の愛する祖国よ、、、! 

 

 

素早く歩きながら、領事館の人は言いました。

「これから何度かここへ来ると思うけど、バスやタクシーを使ったら、その度にチケットをきちんと貰って保管しておいてください。日本に帰ったらその分も保険がおりるからね」

 

私はこんなに親切な、優しいスタッフの方にお世話になれてラッキーだ…!

絶対ラッキーだ!!!!!泣

その場で確信しながら、その人とともにエレベーターで上の階にのぼりました。

 

エレベーターをおりたすぐ右側に、分厚い扉がありました。

その扉の向こうの、小さな小さな一室が、バルセロナ日本国総領事館だったのでした。

 

 

つづく。

 

 

 

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