バルセロナで一文なしになったときの話。2
バルセロナ滞在5日目。
めずらしく集中してブログを書いていたら、隣の椅子に置いていたショルダーバッグが忽然と姿を消しました。おやおや、神隠しかな…?
中には、日本円で1万5千円くらいの現金と、クレジットカード。そして、思い出がたくさん詰まったパスポートにスケジュール帳、かう(友達)と一緒に買ったお気に入りのパスケース、アムステルダムの空港でかうのママが買って付けてくれた、可愛いピンクの木靴のキーホルダー。
いったい、いつ、どこで、どんな風に盗られたのか…
何かの間違いで、そこら辺に落ちているんじゃないか…
何もわからぬまま、もやもやしたまま、私はひたすら電話を掛けていました。
*
旅に持って来ていたクレジットカードは全部で3枚。
すべて使い慣れたVISAで揃えてありました。
そのため、カードを停止する手続きは電話一本で終了。
「カード、止めてくれたって。本当にありがとう」
「うん、でもまだ電話使うんじゃない?」
「そうだよ、存分に使って。うちで盗られたんだろ?」
レセプションカウンターには、B系のお兄さんの他にもう一人、スタッフの人が戻ってきていて、私が電話をしている最中にB系のお兄さんが事情を説明してくれていたみたいでした。
「何かあったら何でも言って。電話は2個あるし、今は暇だし、十分だよ」
「今度はどの番号?掛けようか」
なんて優しいんだ・・・泣
次に掛けたのはスペインの日本大使館。
さっきと同じ要領で話すと、すぐに日本人スタッフの方に取り次いでくれました。
優しくて明るい感じの女性スタッフの方。
「あの…ショルダーバッグが無くなって…多分盗まれたんだと思うんですけど、お金やカードやパスポートが入ってて…」
「そうですか…カードは?クレジットカードは停止しましたか?」
「はい、しました」
「よかった。それで、今はバルセロナにおられるんですよね?」
「はい、あの…本当に有名な広場のすぐそばです」
「そうですか…実は、こちらの大使館はマドリードにあるんです、」
「ハイ…(はあああそっか〜〜!!大使館とかってふつう、首都にあるよねそうだよね…!!泣)」
音速でグーグルマップを開き、マドリードを確認。
……遠っ!おわた!!泣
「…それで、
バルセロナには日本領事館があるんです。多分、そこからも近いんじゃないかな」
((((( 領事館!)))))
「番号お伝えしましょうか、書くものとかありますか?」
「はい、お願いします!」
そうか、世界には主要都市ごとに日本の拠点があるんだ、領事館って聞いたことあるし。…って、こんなのは知ってて当然なんだよ、私。旅人なら最低限知っておくべきことだよ、、、情けない。
「では、そちらに掛けてみてくださいますか?」
「はい、本当にありがとうございます泣」
こんな大バカ者なのに、こんなに丁寧に対応してくれて。その人はなぜか申し訳なさそうにしていたけど、もうその優しさでこちらは泣けていました。その声、忘れません!
*
早速、バルセロナの日本領事館に電話を掛けました。
今度のスタッフの方は「…お母さんかな?」という優しい声をしていて、事情を説明しながらなぜか泣きそうになりました。どこか地方の訛りが入っていて、今までで一番"日本"を感じたのでした。
「そうですか…じゃあ、とりあえずパスポートを再発行しないといけないね、4日後に発つんだもんね…、でも今は◯時(正確な時間は忘れた)だから…うーん、」
その人は何かを一生懸命考えてくれているようでした。でも、私は何がなんだかもわからず、聞かれた質問に答えるだけで、「?」「?」という感じ。あ〜、なんだか全部やってもらっている〜〜情けなし〜〜
「でも今日も、晩ごはん食べたいもんね…」
「…へっ?」
「晩ごはん」という単語が出てくるなんて予想だにしていなかったので、びっくりしました。不意をつかれたような感じでした。
大バカな私が自業自得で失ったショルダーバッグ。悪いのはすべて私。
お金もないし、カードもない。
未だかつて経験したこともない緊急事態だったし、ご飯のことなんて全く考えていませんでした。
「えっと…、ごはんは…なくても大丈夫です!」
「でも、お腹減っちゃうよねぇ」
こんなバカの…ご飯の心配を……泣
晩ごはん…そんなものを数時間後に食べている自分の姿など、ひとつも想像できませんでした。私のような者が、ご飯なんて…食べてもいいのだろうか。
その瞬間、ひらめきました。
「…あっ!そうだ!!大丈夫です、私!
スーツケースに日本円で1万円は持ってるんだった!!」
(そうだった〜!よかった〜〜!!)
「でも、パスポートがないと両替もできないでしょう?」
(はあああああ〜〜!!!そっか〜〜〜〜そうだった〜〜〜!!!…ええ!!じゃあ私、今、正真正銘の一文なしってことじゃん!!!泣)
もうヤダ!どうしよう!!
「…うん!やっぱり今日のうちがいいね!」
その人は一通り何かを考え終わったようで、テキパキと説明してくれました。
「ではまず、パスポートを再発行しに領事館に来てもらいます。パスポートの再発行にはその分のお金と、パスポート用の写真が必要です。なつさんはお金も盗まれちゃったからね、まずは領事館がお金をお貸しします。
写真屋さんは領事館に来てもらえれば、場所をお教えします。写真屋さんのそばに警察署もあるので、そこで被害届を作成してもらって、帰りに写真を受け取って、それらを全部持って領事館に戻ってきてもらいます。そこからパスポートの再発行手続きに入ります。…大丈夫かな?」
混乱してひゃーっとなった頭にスーッと入ってくる、その人の言葉。
テキパキと早口で話していても、自分が今すべきことの手順が頭に入ってきて、傷ついてぐちゃぐちゃで泣きたくなっていた気持ちを落ち着かせてくれます。
頭で手順を確認していきながら、別のところで、(こんな状況に陥った日本人のために、領事館ってお金まで貸してくれるんや…すげ〜〜…!)と感動したりもしていました。
「それじゃあね、そこから領事館まではちょっと距離があるの。歩いても来れないわけではないんだけど、今日はもう時間がないからね、今からすぐにタクシーに乗って来てください。15分位で私も通りまで下りて行きますから。運転手さんには領事館の人が料金を払ってくれるからと説明して、待ってもらってください」
*
電話を終えるとカウンターの中の2人が(どうだった!?)と、私を見ました。
「領事館に来てくださいって」
「そうか、気をつけて!」
「幸運を祈る!」
「うんっ!本当に本当にありがとう〜〜!!」
私はダッシュでホステルを飛び出しました。
通りに出ると、ただただ真っ青に澄みきったバルセロナの空が広がっていました。
つづく。