初恋の思い出。1
私の初恋は中学生の頃。
小学生の頃も「好きな人」はいたけど、「恋」とは違う感じだった。
だから自分の中では「初恋は中学生の頃」と位置づけている。
菊池くん(仮名)は違う小学校から来た男の子だった。
長く隣の席で、あんまりペラペラ話すタイプではないけれど、話してみたら面白くて、地味にいじったりいじられたりするのが楽しかった。
スポーツも良くできる子で、足もさりげなく速い。
普段はあんまり目立たないのに、スポーツで実力を発揮するその横顔はすごくかっこよかった。
よく覚えてるのは、体力測定のシャトルランの時間。
2人で最後の方まで残って競い合った。
中1では私が少しだけ勝ったけど、中3ではめちゃくちゃに負けた。
「やるじゃん」
「おう」
みたいな言葉少ななやり取りでニコリ、終わり。
そんな関係性が好きだった。
*
私は3年間、ずっと菊池くんが好きだった。
でもその頃の私は「好きだから、何?」という感じで、「あの子とあの子が付き合ってて、階段でキスしてたんだって!」という噂を聞いても「へぇ、すご、オトナだね」と思っていたし、中3の頃に「あの子すっごい年上の人と付き合っててもうピーーーしたらしいよ!!!」と聞いたときにはドン引きしてしまった。
ウブだった。
そういうことにあまり興味を持てなかったし、同じ小学校にいたイジメグループがそっくりそのまま同じ中学に来ていて、同じバスケ部だったので、毎日をこなすのに精一杯だった。
付き合うって何?
一緒に帰るくらいしか思いつかないな
それなら家は逆方向だし付き合っても意味ないな
そう思っていた。
*
卒業式の日。
私は菊池くんの第2ボタンを貰おうかどうしようか悩んだ。
でもあんな風に気軽に仲良くしてもらっていたのに、それに私は「付き合うって何?」と思っているのに、こんな気持ちを伝えてもなぁ…と思ってやめた。
その日の朝のニュースでは、アメリカがイラクを爆撃したと報じていた。
暗い気持ちだった。
その日は空もどんより曇っていて、式の後、近くの公園にみんなで集まって卒業アルバムにメッセージを書きっこすると言っていたけど、行かずに家族とすぐに帰った。
私は今度こそ小学校の同級生と同じ学校は嫌だと必死で受験勉強をして、同じ中学からは私ともう一人しか行かない高校に入学が決まっていた。清々していた。
ただ、もう菊池くんとは会えないかもしれないと思うと悲しかった。
*
高校に入る前、念願のケータイを買ってもらった。
中学の同級生はそれなりに持っている子が多くて、みんなはメールをやり取りしていたけど、私は母のケータイでしかやり取りできなかったので、親友以外のアドレスはそんなに知らなかった。
そのため、最初はメールする相手がいなかったけど、だんだんと連絡先が増えていき、私もやっと自分のケータイでのみんなとのやり取りを楽しんでいた。
ある日、あんまり話したこともない男の子から付き合おうと言われた。
その子とはクラスが離れていたけど、菊池くんと仲が良い子だったので知ってはいた。
(そういえば3年になってから、肩をトントンされて振り返ると逃げる、みたいな遊びをその子ともう一人でやってきたなぁ…)
私は(変な人‥)と思いながらもみんなにやっているのだろうとさほど気にしなかった。それなのに突然「付き合おう」と言うので(えっ、私のこと好いてくれてたのかな)とビックリして思わず「いいよ」と返事した。
私は男の子に間違えられるほどのショートカットにしていたし、性格も女子感がひとつもないヤツだったので、誰かが自分のことを好きになってくれるなんて思ってもみなかった。